ほしみ様 呪われた一人必須
ある冒険者の曰く。
指名手配犯をしとめることになった。
いつもいるさくらは別の依頼で出かけているからと、モルガナイトという知らない人が協力することになった。
黒髪の、変わった服を着た男だ。
やたらと日陰を歩いていたので、どうかしたのかと聞いたら、彼は吸血鬼という種族らしい。
よくわからないが、血を吸ったりするらしい。
彼がやたらと日光を眩しそうにしているので、俺の羽に隠れるか?と聞いたら笑われた。
暇なのか、アルマは変な森でやたらと詩を歌っている。
俺が自作ポエムを読むとすごくいやそうな顔をするのに、教養がどうのとか言って自分は好き勝手わめいている。
俺のポエムだって教養の証だってのに。
シャマルが呪われてしまった。
あの指名手配犯の女は、モルガナイトと同じく吸血鬼らしい。
その吸血鬼になるには、なんかいろいろと大変…みたいだが、俺には皆目見当がつかない。
それよりも、シャマルが心配だった。
俺はシャマルに死んでほしくないし、苦しむ人を見るのは嫌だった。
この三日間、俺は呪われた者と昼夜過ごすことになった。
呪われし者の昼と夜
みんなで対策を考えた。
シャマルはずっと気分が悪そうな顔をしていたし、アルマの顔色はなんだか青かったし……クローもいつもみたいにシャマルに突っかからなかった。
モルガナイトはどうやらいろんな情報を集めてきてくれたみたいだ。
リリィは「聖北の神様」とやらに祈っていたけれど、その神様ってやつは、果たしてシャマルにとって優しいやつなのだろうか。
俺にはわからないが、きっとリリィが祈るのならばそうなのだろう。
丸太が吸血鬼に効くらしいので、丸太を切り出したり、(とても重くて大変だった!こういう時なぜかアルマは魔法を使ってくれない。)おびき寄せる餌の血を用意したり、銀の武器を用意したりした。
リリィとクローはすごい勢いで木を切っていたし、モルガナイトは赤い髪と目の女の子と話をしていた。どうやら知り合いで、モルガナイトはその女の子に感謝されるようなことをしたらしい。
あいつは気がきくやつだから、何かいいことをしたんだろう。
でもシャマルの顔色は日を追うごとに悪くなっていった。
口の端を無理に上げて、笑顔を作ろうとしていたけれど、すごく見ていて苦しかった。
寝ているかと聞けば、いやだと答えていたが、アルマが寝かしつけることになった。
大丈夫だ。きっとどうにかなる。
シャマルが動けなくなった。
今のところ、あの女を倒せていないし、このままではシャマルは死んでしまう。
いや、死にはしないのだろうか?
でもシャマルじゃないシャマルなんて、死んだも同然だ。
俺は仲間に死んでほしくない。
アルマは双子の兄だというけれど、こういうときはやっぱり一緒に具合が悪くなるのだろうか。
俺には家族がいなかったのだから、こうして悲しむ彼らを見るのは心が痛むが、それだけ心配してくれる人がいるということだ、うらやましいと感じた。
だから、俺はモルガナイトの最後の選択には賛成だった。
だって、誰かに想われることはいいことだし、生きる手段があるならばそれを選ぶべきだ。
シャマルは吸血鬼になった。生きている。
俺は喜んだ、だって何よりもうれしいことだったから。
リリィも、クローも。ああ、でもクローは「いつまで寝てるんだ」と怒っていた。
アルマは泣いていた。あんな顔を見たのは初めてだった。
弟が生きているのに、なぜ泣いていたのだろう。
シャマルは、また口の端を釣り上げて「ありがとう」と言っていた。
笑っていなかった。
モルガナイトの姿は見えなかった。
俺は彼に感謝の意を伝えたかったのに。
紅い夜が来た。
あの女は俺たちの目の前に現れた、力を増して。
彼女は勝利を確信しているようだ、不意打ちもこざかしい手段も取らず、堂々と正面を切った。
ならば俺たちも堂々と正面から挑もう。
彼女にはおおきな誤算があった。
一つは彼女は自分の力を見誤っていたこと。
一つは彼女は自分だけが特別だと思っていたこと。
そして、何より闇払う旗のリーダーを呪って全員に喧嘩を売ったことだ。
俺も久々に本気を出したいと思った。
疲れるので、あまり好きではないけれど。
シャマルは人をやめたし、丸太で手は疲れた依頼だったけれど、シャマルが生きていてよかった。
たぶん、シャマルは吸血鬼って種族になれないだろうから、俺がしっかりしなきゃな。
少し減ってしまった報酬を握りしめて、俺たちは誰一人かけることなく夕闇亭に帰った。
ある冒険者の曰く。
私は死を望んでいた。
なぜ人として死なせてくれなかった?
なぜ醜く死んだまま生きる呪いをかけた?
私は、どれほどの罪を背負えばいい?
ある冒険者の曰く。
俺はただ生きてほしかった。
何が正しいとか何が良いとかそんなこと関係なしに、
どうして家族が死ぬのを放っておけるんだ。
全部俺の罪でいい。だから、生きてくれ。